別居中や離婚後に個人再生の住宅資金特別条項でマイホームを守れる?
個人再生手続は、支払いきれなくないおそれのある借金の一部を、原則3年(最長5年)で分割払いできれば、残る借金が免除される債務整理手続です。
個人再生手続は、借金がゼロになる自己破産の様々なデメリットを回避できます。
例えば、自己破産では高額な財産は担保にされてなくても処分されてしまいますが、個人再生手続では担保となっていない財産が処分されず、さらに、マイホームについても「住宅資金特別条項」という制度により残すことができます。
しかし、住宅資金特別条項には利用条件がいくつかあります。ひとつでも条件を満たせなければ、マイホームは原則通り住宅ローン債権者により処分されてしまいます。
夫婦がマイホームを持った後、借金問題で別居や離婚をしてしまった場合、マイホームをめぐる権利関係や具体的な事情は結婚中とは大きく変化します。
別居や離婚の後でも、住宅資金特別条項は利用できるのでしょうか。
このコラムの目次
1.住宅資金特別条項の利用条件
住宅資金特別上の利用条件を、簡単にまとめると以下の4つです。
- 担保となっているローンが、マイホームの建設・購入、リフォームに関するローンであること
- 債務者の生活を守るために、特例扱いできるだけの価値のある「マイホーム」と言えること
- マイホームに債務者が負担する住宅ローン以外の債務を担保する抵当権がついていないこと
- 保証会社の代位弁済から6か月以上経過していないこと
別居や離婚に関して、住宅資金特別条項が利用できるか問題となる条件は、主に2.「債務者の生活を守るために、特例扱いできるだけの価値のある『マイホーム』と言えること」という条件です。
なぜこのような条件があるのでしょうか。
マイホーム建築のために大金を貸した住宅ローン債権者としては、担保になっているマイホームを売り払い、ローン残高を回収したくてたまりません。また、法律上も本来そうすることが認められています。
しかし、マイホームは債務者の生活の場として欠かせない財産です。
そこで、住宅資金特別条項は、債務者の生活を守るために、債権者の担保権を制限して、特別にマイホームを債務者に残してあげる制度なのです。
一応、住宅資金特別条項を用いると、住宅ローンは個人再生をしても一切減額されなくなりますが、債権者からすれば、個人再生をするほど困窮した債務者の返済に頼るより、すぐにでもマイホームを処分したい。なのにできない。こんな不利益を受けてしまいます。
そのため、住宅資金特別条項の対象となる建物について、債権者に不利益を与えてでも債務者の生活を保護すべき事情が必要となるのです。
2.別居や離婚の後の住宅資金特別条項の利用
『債務者の生活を守るために、特例扱いできるだけの価値のある「マイホーム」と言えること』という条件は、より細かくすると以下の3つの要素に分かれます。
- 債務者が自らの生活のために用いていること
- 債務者がマイホームを所有していること
- 債務者が条件1の「マイホームの建設・購入、リフォームに関するローン」を負担していること
つまり、住宅資金特別条項を利用するには、マイホームの居住者=所有者=住宅ローン負担者、この三つが一致していることが必要なのです。
この3つの条件のすべてが認められなければ、債務者の生活のため守るべきマイホームとは認められません。
別居していればマイホームに債務者が居住しているかが問題になります。また、離婚では、夫婦が結婚中に共同で築いた財産を分け合う「財産分与」が行われます。
そのとき、夫婦の話し合いの結果次第で、居住者、所有者、住宅ローン負担者がバラバラになってしまうおそれがあります。
そのため、離婚後の住宅資金特別条項を利用には大きな問題が生じることがあります。
それぞれの要素ごとに、具体的に説明しましょう。
(1) 債務者が自らの生活のために用いている
建物の利用目的の問題です。債務者が日常生活の場にするためのものであり、事業や別荘、他人への転売や賃借など投資目的ではないということです。
特別な事情があれば、実際に手続中に債務者本人が居住していなければならないとは限りません。単身赴任のために1年ほど留守にする。その間は知人に1年だけという約束で貸す。
このように債務者が実際に生活のために利用していない事情があっても、それが「一時的なもの」であれば、債務者本人が住むための建物であることに変わりはないので、問題ありません。
別居や離婚により、マイホームを所有し住宅ローンを単独で負担している配偶者(現在の社会の状況からすれば、このような配偶者はたいてい夫でしょう)が、マイホームを出てアパートなどに住んでいれば、マイホームにもう片方の配偶者(妻であることが多いでしょう)が住み続けていたとしても、マイホームを出ていった配偶者がする個人再生手続で住宅資金特別条項を利用することはできないのです。
しかし、近い将来の予定として、妻子が実家に帰るなどしてマイホームから出ていき、個人再生する債務者である夫が再び居住のためにマイホームに出戻り居住を再開することになっているのであれば、夫がマイホームに住んでいない状況は一時的なものと言えます。そのため、住宅資金特別条項が利用できることがあります。
(2) 債務者がマイホームを所有している
問題となっているマイホームを持っているのが住宅資金特別条項を利用したい債務者である。当然と言えば当然のことですが、一つポイントがあります。
マイホームを「共有」している場合も条件を満たすのです。「共有」とは、一つの財産を複数の人間が一緒に持つことです。
マイホームについて、夫婦どちらかが単独で所有しているのではなく、夫婦で共有している場合は、夫婦どちらも「マイホームを所有している」ことになります。ですから、夫婦でマイホームを共有している場合、居住やローン負担をしているどちらかは、住宅資金特別条項を利用できる可能性があるのです。
たとえば、住宅の所有権を元妻と共有している元夫が、マイホームに住み続け、住宅ローンを負担しているのであれば、元夫は住宅資金特別条項を利用できます。
逆に、夫婦いずれかがマイホームを単独で所有しているときは、所有権を持っていないほうの配偶者が住宅資金特別条項を利用できることはありません。
(3) 債務者がローンを負担している
個人再生をしようとしている債務者が住宅ローンの債務者でなければ、住宅資金特別条項を利用することはできません。
住宅ローンを夫だけが単独で負担していれば、妻は個人再生をしても住宅資金特別条項を利用できません。
さらに、別居中や離婚後に夫が個人再生をした場合、別居や離婚によりマイホームに夫が居住していない、または、財産分与で夫がマイホームの所有権を完全に手放してしまったなどの事情次第では、夫も住宅資金特別条項を利用できません。マイホームに住み続けようとしていた(元)妻は、マイホームから出ていくしかなくなります。
一方、所有権の共有と同じように、住宅ローンも夫婦で一緒に負担することができます。もっとも、負担方法次第で、住宅資金特別条項を利用できるかは異なります。
連帯保証
夫婦の一方が住宅ローンを単独で負担し、もう一方は住宅ローンについて連帯保証人になっている場合、離婚後、連帯保証人となっている方の配偶者は、住宅資金特別条項を利用できません。
保証債務は、住宅ローンの支払いが滞った場合に支払いを保証するだけであり、住宅ローンを直接借入れたとは言えません。ですから、「マイホームの建設・購入、リフォームに関するローン」とは言えないためです。
離婚の財産分与でマイホームの所有権を夫から手に入れ、実際に住んでいる元妻は、住宅ローンについて連帯保証しているだけでは、住宅ローンに関して何ら関与していない場合と同じように、個人再生をしても住宅資金特別条項でマイホームを残すことはできないのです。
連帯債務
連帯債務とは、複数の人が一つの借金について返済する義務を負うものです。住宅ローンでいえば、夫婦が共同で一つの住宅ローンを返済する義務を負うことになります。
所有権の共有と同じようなものです。住宅資金特別条項の条件についての考え方も共有と同じです。
夫婦いずれも住宅ローン債権者に対して直接住宅ローンを支払う義務を負っていますから、連帯保証人になっている場合と異なり、住宅ローンを負担しているという条件を満たします。
住宅ローンを連帯して負担している(元)夫婦いずれかが、マイホームを所有しかつ居住していれば、住宅資金特別条項を利用できる可能性があるのです。
ペアローン
ペアローンとは、夫婦がそれぞれ別の住宅ローンを一つずつ負担する方法です。そのため、住宅ローンや抵当権は、それぞれ二つずつになります。
ペアローンの場合、夫婦それぞれが、個別に住宅ローンを負担しています。ですので、少なくとも、住宅ローンを債務者が負担しているという条件は満たします。
あとは居住や所有などの条件が問題になります。しかし、ペアローンには特有の問題があるのです。
ペアローンを組んでいると、住宅資金特別条項の4つの条件の一つ、「3.マイホームに住宅ローン以外の債務を担保する抵当権がついていないこと」に違反するおそれがあります。マイホームに住んでいない元配偶者の住宅ローンについての抵当権は「債務者が負担する住宅ローン以外の債務を担保する抵当権」にあたるからです。
紛らわしいですが、同じ建物についての住宅ローンでも、個人再生をする債務者の住宅ローンともう片方の配偶者が負担する住宅ローンは、別々の借金です。
とはいえ、裁判所の運用次第でクリアできることがないわけではありません。詳しくは弁護士とよく相談してください。
3.個人再生を検討されている方は泉総合法律事務所へ
借金問題はしばしば家族に亀裂を生じさせてしまいます。そのため、債務者の生活を守ることを目的としてマイホームの処分を制限する住宅資金特別条項を利用するためのハードルに引っかかりやすくなるのです。
別居中や離婚後に、家を出ていった夫が個人再生をした場合に、マイホームに住み続けている妻の生活を守るために住宅資金特別条項を利用できるか。
離婚でマイホームに住み続けることになった妻が個人再生をした場合に、マイホームを残すことができるか。
所有権やローンの負担など、さまざまな法的問題を検討しなければ、別居や離婚により複雑になった事実関係のもとで、住宅資金特別条項を用いた個人再生手続が出来るか見通しを立てることは非常に困難です。
泉総合法律事務所では、これまで多数の個人再生手続を手掛けており、このコラムで紹介したような別居や離婚が伴う個人再生手続も多く取り扱ってきました。是非、お気軽にご相談ください
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