むち打ちの後遺障害の賠償金~金額の相場・条件・手続~
むち打ちは交通事故でも特に多い怪我ですが、症状や原因が分かりづらいという問題点があります。
そのため、むち打ちについて十分な損害賠償請求ができるとは限りません。
特に後遺症が残った場合、リハビリの医療費などは怪我の賠償金に含まれません。
そこで、「後遺障害」の認定が大切になります。後遺症が「後遺障害等級認定」という手続で「後遺障害」の等級に該当すると認定されると、追加で損害賠償請求ができるようになります。
もっとも、その認定にもハードルがあり、十分な準備が必要です。
ここでは、むち打ちが後遺障害認定されると何についていくらもらえるのか、どのような場合にどうすればもらえるのかについて、分かりやすく説明します。
このコラムの目次
1.後遺障害等級認定された場合の賠償金の相場
むち打ちの後遺症が後遺障害等級認定により後遺障害と認定されると、怪我についての賠償金(医療費など)とは別に、後遺症についての損害賠償金がもらえます。
金額を表にすると以下の通りです。
12級 | 14級 | ||
---|---|---|---|
自賠責基準 | 後遺障害慰謝料 | 93万円 | 32万円 |
逸失利益の支払上限 | 131万円 | 43万円 | |
弁護士基準 | 後遺障害慰謝料 | 290万円 | 110万円 |
※逸失利益について上限なく請求可能 |
(1) 「自賠責基準」「弁護士基準」とは
交通事故の賠償金の相場には、以下の3つのものがあります。
①自賠責基準
人の死傷による損害賠償金を最低限保証する自賠責保険制度における基準です。
加害者側の自賠責保険会社からの支払いはこの基準に基づきます。
②任意保険会社基準
それぞれの任意保険会社内部で作られている基準です。ほとんどの場合は、①自賠責基準よりわずかしか増えません。
③弁護士基準
被害者の方が弁護士に依頼した時の相場です。
弁護士に依頼をすると、加害者側の任意保険会社は、支払う金額を②の基準から③に近い金額まで上げることが多くなります。
裁判になると費用が掛かりますし、裁判所も弁護士基準を尊重しているからです(そのため弁護士基準は「裁判基準」とも呼ばれます)。
とはいえ、具体的な事情によっては、保険会社がさほど支払額を上げてこないこともあります。
特にむち打ちでは、症状や原因が分かりづらいため、信頼できる資料が十分なければ、弁護士に依頼するメリットが薄れてしまいます。
(2) 「12級」「14級」とは
後遺症の損害賠償金の金額は、症状の重さにより分けられている「等級」に応じて変わります。
むち打ちが後遺障害に認定された場合、最も低い14級か、もう二つ上の12級になります。
(3) 「後遺障害慰謝料」「逸失利益」とは
後遺障害慰謝料とは、後遺障害について後遺症が残ってしまったことについての苦痛を和らげるための賠償金です。
逸失利益とは、後遺症のせいで仕事や家事などの生活に悪影響が出てしまうことによる将来の手に入れられなくなった収入を埋め合わせるための損害賠償金です。
後遺障害慰謝料は、基準で金額が決まっています。なお、他の制度による調整がされ、全額が必ず支払われるとは限らないことにご注意ください。
12級 | 14級 | |
---|---|---|
自賠責基準 | 93万円 | 32万円 |
弁護士基準 | 290万円 | 110万円 |
逸失利益は、自賠責基準にせよ、弁護士基準にせよ、基本的には、「年収が後遺障害によりどれだけ下がるといえるか(労働能力喪失率)」「将来何年働くといえるか」を基準に計算します。
ただし、むち打ちの場合、将来ずっと仕事に悪影響が残るとはされにくく、一般的に、14級だと5年程度、12級でも10年程度についてしか逸失利益が認められないでしょう。
それでも、逸失利益は無視できない賠償金です。年収400万円の方なら、逸失利益は90万円近くにもなることがあります。
2.後遺障害等級認定されるためのポイント
後遺障害の認定を受けるには、後遺症があると認められること・後遺症の原因が交通事故であるといえること・仕事や家事をする能力(労働能力)が等級の基準に当たる程度、低下していること、などが条件となります。
しかしむち打ちの場合、症状が他人から分からない・検査しても体の損傷がわかりにくい・他の多くの原因で生じる可能性がある多様な症状が出ることがあるといった特徴があるために、上記の条件を証明することが難しくなっています。
ここからは、むち打ちの後遺障害等級認定で特に大切になるポイントを簡単にまとめました。
(1) 事故の衝撃が強かったこと
衝撃が強かったと言える証拠があれば、後遺症が残ってもおかしくないと言えます。
ドライブレコーダーや事故直後の写真、修理費の見積書など、少しでも客観的な資料で衝撃が強かったと証明しなければいけません。
(2) 症状があるところに持病がなかったこと
事故の前からある持病があると、症状の原因とされてしまえば、認定は受けられません。
以前に後遺障害認定を受けている場合、今回は認定を受けられないこともあります。
(3) 事故後すぐに病院でむち打ちの診断を受けたこと
むち打ちの症状は、交通事故以外の原因でも生じるものが多くあります。
そのため、事故直後に病院(できうる限り整形外科)で交通事故によるむち打ちで症状が生じていると診断を受けている必要があります。
目安の期限は、事故から1週間です。それを超えると認定は非常に困難です。
(4) 必要な検査を受ける
むち打ちの証明で有効な検査には、画像検査(MRI検査など)・神経学的検査(体に刺激を与えて神経の損傷を確認する検査、腱反射検査など)があります。
むち打ちになっても画像検査で異常が見つからないことはよくあり、即座に認定不可能とされるわけではありません。
とはいえ、何らかの異常が検出できれば認定上有利になります。うまくいけば、12級の獲得も狙えます。
ただし、他の検査結果や自覚症状の特徴などとの整合性が厳しく判断されます。
神経学的検査には様々な種類のものがあり、信用性も異なります。腱反射検査など信頼されている検査で陽性反応が出ていれば、認定には有利です。
(5) 事故のあと定期的に通院をしていたこと
認定に値するだけの重い症状があることは、自覚症状メインのむち打ちでは証明しづらいものです。
そこで、通院の期間や頻度が目安になっています。
- 通院期間が6か月以上
- 通院頻度が週に2〜3回以上
以上が目安となっています。また、通院先は整形外科が原則です。
(6) 症状が一貫している自然なものであること
症状が、交通事故によるむち打ちの後遺症の一般的な特徴を備えているかも問題になります。
具体的には、以下のようなものです。
- 症状がほぼいつもあること(⇔×特定条件を満たしたときだけ症状がでる)
- 事故直後に一番症状が重く、そのあと緩やかに回復したこと(⇔×症状が回復と悪化を繰り返す)
- 症状のある個所や内容が一貫している(⇔×症状のある箇所や内容が通院中に変わっている)
- 症状の内容などが、事故や検査結果など関係する事情からして自然であること
実際のあなたの症状が上記を満たしていても、医師の診察でうまく伝えられず、医師がカルテや診断書に実際とは異なる記載をしていると、認定では不利になります。
後遺障害等級認定手続は、「書面審査」と呼ばれ、書類資料でしか判断がされないからです。
(7) 「後遺障害診断書」に問題はないこと
後遺障害診断書とは、認定手続のために後遺症についてまとめた特別な診断書です。
最初の診断日・持病の記載・自覚症状の記載・検査結果・将来の症状の予測など、重要事項が盛りだくさんです。
できれば、後遺障害診断書の作成を医師に依頼する前に、弁護士の法律相談で助言を受けましょう。
3.後遺障害等級認定の申請方法や手続
後遺障害等級認定の申請方法や手続にも注意が必要です。
後遺障害等級認定では、主に以下の書類を加害者側の自賠責保険会社に提出します。
なお、自賠責保険会社は中立的な第三者機関に資料を送付し、その第三者機関が審査を行います。
- 交通事故証明書など
- 事故発生状況報告書
- 自賠責保険支払請求書兼支払指図書
- 印鑑証明書
- 後遺障害診断書
- レントゲン、MRIなどの検査画像(必要に応じて)
また、後遺障害等級認定を申請する方法には、だれが書類を集めて申請をするかが異なる、①被害者請求、②事前認定の二つがあります。
一般に、むち打ちの後遺障害等級認定には、被害者請求のほうが向いていることがポイントです。
(1) 被害者請求
被害者の方自ら、上記の資料を集めて申請します。
メリットとしては、積極的に有利な資料を集めることができる・どのような資料を提出したのかが分かる、などがあります。
ただし、資料の収集・作成の手間が面倒です。手続に関する専門知識がなければ、適切な資料を集められず、メリットを活かせないおそれもあります。
(2) 事前認定
加害者側の任意保険会社が申請手続を代わりに行います。被害者の方はほとんど負担がありません。
しかし、必要最低限の資料しか提出されない可能性がある・認定のため提出された資料の内容が分からない、などのデメリットがあります。
むち打ちは、症状も原因もともかく証明しづらいのです。
資料集めを保険会社任せにすると、せっかく有利な資料があるのに提出できないことも考えられます。
12級を認定してもらうにも、画像検査だけでは不十分です。神経学的検査の結果や自覚症状が画像検査と整合していることを、医師に診断書に丁寧に記入してもらう必要があります。
認定されにくさ、等級が上がるためのハードルなどを考えれば、できれば、むち打ちの後遺障害等級認定を申請するときは、被害者請求でするべきです。
その際には、弁護士に依頼して資料集めや書類作成の助言を受けましょう。
資料集めの負担はただでさえ重いうえ、専門的な知識がなければ適切な資料を集めることは難しいからです。
4.まとめ
むち打ちでは、怪我の賠償金がさほどもらえないおそれがありますから、後遺症が残ってしまった場合には、できれば後遺障害等級認定を受け、後遺症についても損害賠償請求すべきです。
弁護士は、専門的な知識に基づいてあなたの具体的な事情を確認し、最適な対応策を提案してくれます。
泉総合法律事務所は、これまで交通事故でむち打ちになってしまった方の後遺障害等級認定の申請や損害賠償請求をお助けしてまいりましたので、どうぞ安心してお任せいただければと思います。
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